初夢

 古民家を改装したように見える畳の間の窓際のテーブル席で、六十代くらいの女性三人がおしゃべりに夢中になっている。窓から、冬の朝の爽やかな光が差し込んでいる。
 そこへ、顔の丸々とした白髪で小太りの男が妻と見える女性を連れて機敏な足取りで入ってきた。畳の間にはまだ何人も人が座れる十分な空間があるが、テーブルは窓際にしかなかった。この二人は、襖の向こうの狭い廊下に案内された。そこには、二人分のお膳をかろうじて並べられそうな、年季の入った文机のような小さな机が部屋に向かって襖の敷居に沿って置かれていた。広々とした部屋を眺めながら、床の冷え冷えとする狭い廊下に座る格好となるが、二人は文句一つ言わず平然としていた。
 店主の若い体格のいい男が注文を取りに来た。注文を聞くと、店主は襖を動かし、二人が座る机の幅の分だけ閉めた。その襖には、遠目に見る梅の木が数本描かれていた。店主は厨房に戻ったかと思うと、竹の花挿しに生けた梅の枝を一本持ってきて、机の上に立てた。本物の梅と、襖絵の梅が、一つの景色をつくった。
 お腹が完全に満たされない、ちょっとしたお粥のような料理も出された。客の男はそれを一瞬にして平らげた。
 それを見計らったかのように、店主は今度は銀色のノートパソコンを持ってきて、二人の机に乗せた。そして男をそこからどかせて、自分で操作し始めた。
「ちょっと明る過ぎるから、ブラインド閉めて」
 若い女性の店員に大声でそう言いつけた。
「奥様のお好きな黄緑っぽい色にしてます」
 店主は夫が見ていない隙に、女性客の耳元でそう囁いた。ブラインドを閉めながら店員はその様子を見て、汚らわしいものを見たような不快な感じがした。
 パソコンの画面は、全体が次第にセピア色に移り変わり、それがさらに白黒に近づき、ほのかに黄緑がかっていた。男性客はそれを横から覗き込むと、目を大きくして感動を露にした。
「パソコンの画面でこんな色が出せるんですね」
 店主は返事をしなかったが、誇らしげだった。そして黙ったまま、操作を続けた。男性客はますます画面に引き込まれていった。乱れた白髪を、妻が両手の指で後から梳かした。
 店主は席を離れて、畳の間に置かれた大きなデスクトップパソコンをいじり始めた。
 突然、男性客が見ているノートパソコンの画面に、映画のエンドロールのようなものが流れた。そのスピードが速過ぎて名前をはっきりと読み取れないが、店主や二人の客の名前も入っているようだった。男性客は顔を上げて店主の方を見た。店主は愉快そうに言った。
「パソコンではこういうことしないでしょ。だからこそ、パソコンでやってみたかったんです」

 ここで目が覚めた。前夜はなかなか寝付けないほど寒かったが、一夜明けて布団の中が暖まっていた。またしても奇妙な夢を見たものだと思った。元日の日記に、「今年はなるべくデジタルに頼らない暮らしをする」と書いたのを思い出した。